純粋に「日本的」な「鏡花世界」
じゅんすいに「にほんてき」な「きょうかせかい」
初出:「図書 三月号(第五十号)」岩波書店、1940(昭和15)年3月5日分量:約4分
書き出し:正直に云つて、晩年の鏡花先生は時代に取り残されたと云ふ感がないではなかつた。先生の如く過去に極めて輝かしい業績を成し遂げた人は、いかなる場合にも心の何処かに晏如たるものがあるから、あまり淋しさうにはしてをられなかつたけれども、老後の先生が久しく文壇の主流から置き去りにされてゐたことは否むべくもない。が、その人が既に故人となつた今、その著作には新たに歴史的な意義と、古典的な光彩とが加はつたと見るべき...