男は医者 女は 前に その男の患者だった。 二人共 家族がある。 二重の不倫で しかも 臨月が近い。 死にに来たわけではなく 将来を考えている。 この様な 手詰まりな状況の設定は 芙美子の得意技で まあ 気がすむように やんなさいと 言う外ない。
林芙美子の作品の中では,放浪記や風琴と魚の町、旅行記等は非常に生き生きと瑞々しくて好きなのだが、こういったメロドラマは虫酸が走る程嫌いだ。三島由紀夫が芙美子の事を馬鹿女呼ばわりしたのが残念だがわかる。林芙美子の実生活も奔放で、同じ女としてもはしたないと思った。夫、緑敏さんの深い理解と支えあってこその彼女の作家人生ではなかったろうか。 それにしても、放浪記は何度呼んでも水気をたっぷり含んだ野草のような新鮮な匂いがする生きている作品だと思う。
学生時代に先輩が林芙美子のことをいとおしそうに呟いていたのを聞いて、ずっと読みたいと思っていたが、どういうわけかその機会がなかった。この青空文庫で、偶然林の作品を見つけ、早速読んでみる。 読みたかった(放浪記)ではなく知らない作品であった(あひびき)を選んだのは、ページ数の少なさ故のみではなく、その題名に、もう随分長いこと忘れていた官能の香りを嗅いだからかもしれない。 愛人を失ってでも、腹に宿した子を産もうと決意する三十代の女の潔さに、他者を生む性である女として共感する。 しかし、読後、一番心に広がったのは、作品そのものについての思いよりも、林芙美子という作家の存在をわたしに教えてくれた先輩が、この作家の何に引かれたのかを聞いておけばよかったという後悔だった。 若く未熟だったわたしは、彼女の硬質な外観の鎧の下にちらりと見えた女の情念の片鱗に、それ以上立ち入ることが出来なかったのだ。
今風に言うと、W不倫のお話。 文学ではあるが、感情移入する話ではないな。ただ、不倫が誤りで結婚が正しいかどうか、その逆との記述あり。 7年間も偽り誤りの結婚生活を送っていたと。医者と患者で男と女。女の腹には不倫の子がいる。それでも他人を巻き込みたくないとの気持ち。やがて、女は飛行機が墜落するが如く、死を意識する。我子の将来を安じながら。