寅彦夏話
とらひこかわ
初出:「東京朝日新聞」1937(昭和12)年8月12~14日分量:約10分
書き出し:一海坊主と人魂寅彦先生が亡くなられてから二度目の夏を迎えるが、自分は夏になると妙にしみじみと先生の亡くなられたことを感ずる。大学を出て直ぐに先生の助手として、夏休み中狭い裸のコンクリートの実験室の中で、三十度を越す炎暑に喘ぎながら、実験をしていた頃を思い出すためらしい。先生は夏になると見違えるほど元気になられて、休み中も毎日のように実験室へ顔を出された。そしてビーカーに入れた紅茶を汚なさそうに飲み...