木精(三尺角拾遺)
こだま(さんじゃくかくしゅうい)
初出:「小天地 第一巻第八号」1901(明治34)年6月10日分量:約10分
書き出し:「あなた、冷えやしませんか。」お柳《りゅう》は暗夜《やみ》の中に悄然《しょんぼり》と立って、池に臨《のぞ》んで、その肩を並べたのである。工学士は、井桁《いげた》に組んだ材木の下なる端《はし》へ、窮屈《きゅうくつ》に腰を懸《か》けたが、口元に近々《ちかぢか》と吸った巻煙草《まきたばこ》が燃えて、その若々しい横顔と帽子の鍔広《つばびろ》な裏とを照らした。お柳は男の背《せな》に手をのせて、弱いものいいな...