お勢登場
おせいとうじょう
初出:「大衆文藝」1926(大正15)年7月分量:約33分
書き出し:一肺病やみの格太郎《かくたろう》は、今日も又|細君《さいくん》においてけぼりを食って、ぼんやりと留守を守っていなければならなかった。最初の程は、如何《いか》なお人|好《よ》しの彼も、激憤を感じ、それを種《たね》に離別を目論《もくろ》んだことさえあったのだけれど、病《やまい》という弱味が段々彼をあきらめっぽくして了《しま》った。先の短い自分の事、可愛い子供のことなど考えると、乱暴な真似《まね》はでき...