赤ひげ診療譚
あかひげしんりょうたん
07 おくめ殺し
07 おくめごろし初出:「オール読物」1958(昭和33)年11月分量:約61分
書き出し:一十二月にはいってまもない或る日の午後八時過ぎ、——新出去定は保本登と話しながら、伝通院のゆるい坂道を、養生所のほうへと歩いていた。竹造が去定の先に立って、提灯《ちょうちん》で足もとを照らしながらゆき、薬籠《やくろう》は登が負っていた。一人の使用人に二つの仕事を同時にさせてはならない、と去定はつねに云っている。医員たちはべつであるが、下男下女、庭番などにはこの内規が固く守られていて、これまでにも登...