青べか物語
あおべかものがたり
初出:「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号分量:約417分
書き出し:はじめに浦粕《うらかす》町は根戸川のもっとも下流にある漁師町で、貝と海苔《のり》と釣場とで知られていた。町はさして大きくはないが、貝の罐詰《かんづめ》工場と、貝殻を焼いて石灰を作る工場と、冬から春にかけて無数にできる海苔干し場と、そして、魚釣りに来る客のための釣舟屋と、ごったくやといわれる小料理屋の多いのが、他の町とは違った性格をみせていた。町は孤立していた。北は田畑、東は海、西は根戸川、そして南...