菊月夜
きくづきよ
初出:「講談雑誌」博文館 、1944(昭和19)年10月号分量:約42分
書き出し:一「珍しい到来物があったのでね。茶を淹《い》れてきましたよ」若いはしたに茶道具を持たせて、そういいながらはいって来た母親のようすを見たとき、信三郎《しんざぶろう》はすぐになにかはなしが出るなと思った。珍しい菓子というのは砂糖漬けの杏子《あんず》だった。「あなたがお帰りだというので、疋田《ひきた》さまから届けてくだすったんですよ、絢子《あやこ》どののお手作りだそうです、召上ってごらんなさい」「珍重な...