艶書
えんしょ
初出:「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号分量:約65分
書き出し:一岸島出三郎《きしじまいでさぶろう》はその日をよく覚えている。それは宝暦《ほうれき》の二年で、彼が二十一歳になった年の三月二日であった。よく覚えている理由は一日に二つの出来事があったからで、その一つは道場の師範から念流《ねんりゅう》の折紙をもらったこと、他の一つは新村家《にいむらけ》の宵節句に招かれたこと、そうしてその宵節句の席で、彼は(不明の人から)艶書《えんしょ》をつけられたのであった。岸島の...