霜柱
しもばしら
初出:「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月分量:約38分
書き出し:一「繁野《しげの》という老職を知っているか」「繁野、——」石沢金之助は筆を止めて、次永《つぐなが》喜兵衛を見あげた、「老職には二人いるが、どうかしたのか」「としよりの家老のほうだ」「御家老なら兵庫どのだろう、むろん知っているが、それがどうした」「おれはつくづく」と云いかけて、喜兵衛は石沢の机へ手を振った、「もう片づくんじゃないのか」「そう思っていたところだ」「じゃあ下城《げじょう》してから話そう」...