しじみ河岸
しじみがし
初出:「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号分量:約65分
書き出し:一花房律之助はその口書の写しを持って、高木新左衛門のところへいった。もう退出の時刻すぎで、そこには高木が一人、机の上を片づけていた。「ちょっと知恵を借りたいんだが」高木はこっちへ振返った。「この冬木町の卯之吉殺しの件なんだが」と律之助は写しを見せた、「これを私に再吟味させてもらいたいんだが、どうだろう」「それはもう既決じゃあないのか」「そうなんだ」「なにか吟味に不審でもあるのか」「そうじゃない、吟...