三十二刻
さんじゅうにこく
初出:「国の華」1983(昭和15)年9~10月号分量:約41分
書き出し:一「到頭はじめました」「そうか」「長門《ながと》どのでも疋田《ひきだ》でも互いに一族を集めております。大手の木戸を打ちましたし、両家の付近では町人共が立退きを始めています」「ではわしはすぐ登城しよう」「いやただ今お触令がございまして、何分の知らせをするまで家から出ぬようにとのことです。騒動が拡がってはならぬという思召《おぼしめし》でしょう。しかし用意だけはいたしておきます」父と兄とが口早に話してい...