秋風不帰
しゅうふうふき
初出:「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号分量:約36分
書き出し:一「ねえお侍さん、乗っておくれよ」「しようのない奴だな」狩谷夏雄は苦笑しながら振返って、「何度も云う通り拙者は城下まで行くのだ、ここはもう柳繩手の町外れではないか、ここから馬に乗ってどうするのだ」「それでも、……ねえ乗って下さいよ、……じゃなければ草鞋《わらじ》を一足買っておくんなさい、お侍さんのは、もう緒が切れそうだよ」年は十六か七であろう、まっ黒に日焼けのした顔に似合わず、頬冠りの下から覗《の...