醜聞
しゅうぶん
初出:「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月分量:約60分
書き出し:一苅田《かりた》壮平はなめらかに話した。それはちょうど、絵師が自分の得意な絵を描《か》くのに似ていた。どの線もどの点も、またぼかしの部分や着彩の順にも、いささかの誤りもためらいもなく、すらすらと描きあげてゆくのを見るようであった。楯岡《たておか》のときと同じだな、と功刀《くぬぎ》功兵衛は思った。楯岡平助のときと殆んど同じだと、——裏のほうで仔猫《こねこ》のなく声がし、窓外の庇《ひさし》に枯葉の散り...