正体
しょうたい
初出:「アサヒグラフ」 1936(昭和11)年3月11日号分量:約19分
書き出し:龍助《りゅうすけ》危篤という電報を手にしたとき、津川《つがわ》は電文の意味を知るよりも佐知子《さちこ》に会えるなと思うほうがさきだった。「なんていうやつだ」それでも彼はいちおうそう云って自分を苦々しく反省したが、車で東京駅へかけつける気持には、すでにどう抗《あらが》ってみても危篤の友を見舞うにふさわしいものはなくて、抑えても抑えてもふくれあがる女への情熱でいっぱいだった。佐知子とは彼女が龍助のあと...