その木戸を通って
そのきどをとおって
初出:「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月分量:約58分
書き出し:一平松正四郎が事務をとっていると、老職部屋の若い付番《つきばん》が来て、平松さん田原さまがお呼びですと云った。正四郎は知らぬ顔で帳簿をしらべてい、若侍は側へ寄って同じことを繰り返した。「おれのことか、なんだ」と正四郎が振向いた、「平松なんて云うから、——ああそうか」と彼は気がついて苦笑した、「平松はおれだったか、わかった、すぐまいりますと云ってくれ」正四郎は一と区切ついたところで筆を置き、田原|権...