合歓木の蔭
ねむのきのかげ
初出:「新読物」交友社 、1948(昭和23)年9月号分量:約36分
書き出し:一誰かが自分を見ている。奈尾《なお》はさっきからそのことに気がついていた。もちろん右側の男たちの席からである、さりげなく振り向いてみるが、その人はすばやく視線をそらすとみえて、どうしてもその眼をとらえることが出来なかった。——こんど完成した二の丸御殿の舞台で、こけら落しとかいう、江戸から観世《かんぜ》一座が呼ばれ、殿さまも安宅《あたか》の弁慶をおつとめになる演能《えんのう》に、寄合以上の者が家族と...