だだら団兵衛
だだらだんべえ
初出:「キング」大日本雄辯會講談社、1932(昭和7)年5月号分量:約32分
書き出し:一雨もよいの生温《なまぬる》い風が吹いている。ここは鈴鹿峠の裏道、俗に三本|榧《がや》と呼ばれて、巨《おお》きな榧の木が三本、のんと立っている峠の八合目近くだ。とっぷり暮れた暗い夜道を、足早に登って来る一人の侍がある。六尺たっぷりという身丈に、三尺余る無反《むぞり》の強刀を横へ、急ぎの旅で夜行するらしく、とっとっと三本榧までやって来た。すると——ふいに傍の雑木林の中から、ばらばらと十四五名の荒くれ...