夏草戦記
なつくさせんき
初出:「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年3月号分量:約55分
書き出し:一慶長五年(一六〇〇)六月のある日の昏《く》れがたに、岩代のくに白河郡の東をはしる山峡のけわしい道を越えてきた一隊百二十余人のみしらぬ武者たちが竹置《たけぬき》という小さな谷あいの部落へはいって野営をした。……かれらは馬標《うまじるし》も立てず、旗さし物もかかげていなかった。みんな頭から灰をかぶったように埃《ほこり》まみれで、誰の顔にも汗の条《すじ》が塩になって乾いていた。疲れきっているとみえてむ...