彩虹
にじ
初出:「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号分量:約36分
書き出し:一「……ひと夜も逢わぬものならば、二た重の帯をなぜ解いた、それがゆかりの竜田山、顔の紅葉で知れたとや……」さびのあるというのだろう、しめやかにおちついた佳い声である。窓框《まどかまち》に腰を掛けて、柱に頭をもたせて、うっとりと夜空を眺めていた伊兵衛は、思わず、「たいそうなものだな」と呟《つぶ》やいた。彼の足許《あしもと》へ身を寄せるようにして、色紙で貼交《はりま》ぜの手筐《てばこ》のような物を作っ...