花咲かぬリラ
はなさかぬリラ
初出:「新青年」公友社、1946(昭和21)年5月号分量:約48分
書き出し:一軍服を着た肩のたくましい背丈の眼だって高い青年が、大股《おおまた》のひどく特徴のある歩きつきで麻布片町坂を下りて来た。片手に鞄《かばん》を持ち、右の肩に大きくふくらんだ雑嚢《ざつのう》をひっ掛けている、鞄にも雑嚢にも筆太の無遠慮な字で麻川|来太《らいた》と書きなぐってあるが、その特徴のある歩きぶりと体つきとが似合っているように、そのなぐりつけたような名の文字と風貌ともよく似ているので、注意して見...