半之助祝言
はんのすけしゅうげん
初出:「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月分量:約57分
書き出し:一折岩半之助が江戸から着任した。その日、立原平助が桃の咲きはじめたのを見た。次席家老の前田甚内の家の桃である。平助はそれについて次のような感想を述べた。「南枝一輪、桃などもそう云っていいものかどうか、ともかく南面の枝に三つ四つ、ふっくらと咲いていたよ、こんなふうにさ」彼は両手でそんなふうな恰好をしてみせた。「——私は思わずどきりとしたね」そこで葵太市が訊《き》いた。「桃が咲いてなぜどきりとするんだ...