武家草鞋
ぶけわらじ
初出:「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月分量:約46分
書き出し:一「あの方はたいそう疲れていらっしゃるのですね、お祖父《じい》さま、きっとずいぶんお辛い旅が続いたのでしょう、わたくしあの方のお顔を拝見したときすぐにそう思いました」若いむすめの艶《つや》やかな声が、秋の午後のひっそりとした庭のほうから聞えてくる、「……並なみのご苦労ではないのですよ、あのお眼の色でしんそこ疲れきっていらっしゃるのがわかります、わたくし胸が痛くなりました、本当にここのところが痛くな...