風流太平記
ふうりゅうたいへいき
初出:「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日分量:約629分
書き出し:変事一九月中旬のある晴れた日の午後。芝新網にある紀州家の浜屋敷の門前へ、一人の旅装の若者が来て立った。長い旅をつづけて来たものとみえ、肩へかけた旅嚢《りょのう》も、着ている物も、すべて汗じみ、埃《ほこり》まみれであるが、笠をぬいだところを見ると、いま洗面したばかりのように、さっぱりと冴《さ》えた顔つきをしていた。眼鼻だちはきりっとして、ちょっと強情らしく、きかない性質のようであるが、やや尻下りの眼...