蕗問答
ふきもんどう
初出:「冨士」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年7月号分量:約18分
書き出し:一寒森新九郎《さむもりしんくろう》は秋田藩士である。食禄は八百石あまりだが佐竹では由緒のある家柄で、代々年寄役として重きをなしていた。年寄役とは顧問官のようなもので、閑職ではあるが重臣だけが選ばれる顕要な地位である。彼は二十五歳で父亡き跡を襲い、以来五年のあいだ主として筆頭の席を占めてきた。役目の性質として常に藩政の鑑査に当るのは勿論《もちろん》だし、時には主君の命令をも否決する立場に立たなければ...