暴風雨の中
あらしのなか
初出:「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月分量:約40分
書き出し:一烈風と豪雨が荒れ狂っていた。氾濫《はんらん》した隅田川《すみだがわ》の水は、すでにこの家の床を浸し、なお強い勢いで増水しつつあった。昨日の未明からまる一日半、大量の雨を伴って吹きとおした南の烈風は、ようやくいまやみそうなけはいをみせ始めていた。まだ少しも弱まってはいないが、ときおり喘《あえ》ぎのように途切れるし、空を掩《おお》って低くはしる雲の動きも、いくらか緩くなってゆくようであった。三之助は...