みずぐるま
みずぐるま
初出:「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号分量:約69分
書き出し:一明和五年の春二月。——三河のくに岡崎城下の西のはずれにある光円寺の境内で、「岩本新之丞一座」というのが掛け小屋の興行をした。弘田和次郎は友人の谷口修理にさそわれて、或る日それを見物にいった。弘田家は六百五十石の老職で、家柄は国許《くにもと》の交代次席家老であるが、二年まえに姉の自殺したことが祟《たた》って、父の平右衛門は職を辞して隠居し、和次郎は十八歳で家督を継いだが、現在まだ無役のままであった...