時間がかかっても、腹を決めた女は強い。 愛とは何だろう。 人を愛するというのはその人間の強さかもしれない。
山周傑作の中の一つ。
一気に読み切れました。清々しい心に残る展開、感無量
地震、火事、洪水。 江戸の街に生きる庶民は大変だったとあらためて思う。 おせんにはいくつかの選択肢があった。 ひとつには庄吉との約束など忘れて幸太の愛と好意にすがること。 でもそれを選ぶ間もなく幸太は火事の中隅田川に沈んでしまった。 もう一つはどんな手を使ってでも庄吉の誤解をとくこと。 でもおせんはいつかはわかってくれると待つことを選んだ。 そして庄吉に完全に裏切られた。 こうなると読者としては「絶望の死」という3つめの選択肢しかおせんには残されていないように思えてくる。 実際おせんはそうなりかけたし頭も狂いかけた。 でもそうなってしまっては読後の後味の悪さしか残らないではないか、いったいこの小説をどう始末するんだという気持ちで読み進めた。 冷たい世間の中でも必ず好意を善意を寄せてくれる人はどこかにいる。 飛行機が墜落寸前のところで操縦桿を持ち上げるとでもいうか、第4の選択肢がおせんに与えられる。 そしてその選択肢を選び取ったのはおせん自身だ。 見たこともないのに見たかのようにうそを言うのが小説家というものだろうが、見たこともないのにここまで人間の心のひだの一つ一つをくっきりと文章に書ききることができる。 山本周五郎でなくて誰ができるだろう。
このあとおせんちゃんは幸せに暮らしました。となりそうなことだけが救い