若き日の摂津守
わかきひのせっつのかみ
初出:「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月分量:約60分
書き出し:一摂津守|光辰《みつとき》の伝記には二つの説がある。その一は藩の正史で、これには「生れつき英明果断にして俊敏」とか、「御一代の治績は藩祖泰樹院さまに劣らず」などと記してある。藩主の伝記などはたいてい類型的なものだから、こういう文句は珍しくもなし興味も感じられない。けれどもこれとはべつに、泉阿弥という筆名で書かれた「御進退実記」というものには、左のような思いきった記事がある。——幼少のころから知恵づ...