樅ノ木は残った
もみノきはのこった
02 第二部
02 だいにぶ初出:「日本経済新聞」1954(昭和29)年7月20日~1955(昭和30)年4月21日分量:約289分
書き出し:柿崎道場新八の顔は血のけを失って蒼白《あおじろ》く、汗止めをした額からこめかみへかけて膏汗《あぶらあせ》がながれていた。躯も汗みずくで、稽古着はしぼるほどだったが、それでも顔は蒼白く、歯をくいしばっている唇まで白くなっていた。躰力《たいりょく》も気力も消耗しつくしたらしい。眼の前にいる柿崎六郎兵衛の姿もぼんやりとしか見えず、ただ六郎兵衛の木剣だけが、ぞっとするほど大きく、重おもしく、はっきりと見え...