日本婦道記
にほんふどうき
忍緒
しのびのお初出:「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年2月分量:約25分
書き出し:一はたはたと舞いよって来たちいさな蛾《が》が、しばらく燭台《しょくだい》のまわりで飛び迷っていたと思うと、眼にみえぬ手ではたかれでもしたようにふいと硯海《けんかい》に湛えた墨の上へおち、白い粉をちらしながらむざんにくるくると身もだえをした。松子は筆をとめてそれを見た、ふだんは部屋にひとついても身ぶるいのするほど嫌いな虫だったけれど、そのときはどうしてかいたましく哀れに思え、つと書き反古《ほご》の紙...