日本婦道記
にほんふどうき
尾花川
おばながわ初出:「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年4月分量:約24分
書き出し:一「そういう高価なものは困りますよ、そちらの鮒《ふな》を貰っておきましょう」書庫へ本を取りにいった戻りにふとそういう妻の声をきいて、太宰《だざい》は廊下の端にたちどまった。相手はいつも舟で小魚を売りに来る弥五《やご》という老漁夫らしい、「そんなことを仰《おっ》しゃらないで買って下さいまし、こちらの旦那さまにあがって頂こうと思って、ほかの家の前を素通りして持って来たんですから」諄々《くどくど》とそう...