日本婦道記
にほんふどうき
小指
こゆび初出:「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年1月分量:約29分
書き出し:一「今日は、そんなものを着てゆくのか」「はい」小間使の八重は、熨斗目麻裃《のしめあさがみしも》を取り出していた。平三郎は、ぬうと立ったまま八重の手許《てもと》を見まもる、彼にはなぜ礼服を着てゆくかがわからない。「なにか今日は、式日だったのか」「いいえ、お式日ではございません」八重は礼服をきちんと揃える、それを脇へ直して扇筺《おうぎばこ》を取る、蓋を開けてやはり式用の白扇を取り出し、それを礼服の上へ...