日本婦道記
にほんふどうき
笄堀
こうがいぼり初出:「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年1月分量:約30分
書き出し:一さかまき靱負之助《ゆきえのすけ》は息をはずませていた、顔には血のけがなかった、おそらくは櫛《くし》をいれるいとまもなかったのであろう、乱れかかる鬢《びん》の白毛は燭台《しょくだい》の光をうけて、銀色にきらきらとふるえていた。——ああ靱負はうろたえている。真名女《まなじょ》はそう思った。そしてそう思ったときに、自分のやくめがどんなに重大であるかということを悟った。「この事を誰が知っていますか」「ま...