赤ひげ診療譚
あかひげしんりょうたん
06 鶯ばか
06 うぐいすばか初出:「オール読物」1958(昭和33)年10月分量:約59分
書き出し:一俗に「伊豆さま裏」と呼ばれるその一帯の土地は、松平|伊豆守《いずのかみ》の広い中屋敷と、寛永寺の塔頭《たっちゅう》に挾《はさ》まれて、ほぼ南北に長く延びていた。表通りには僅かばかりの商店と、花やあか桶《おけ》を並べた寺茶屋があるほかは、商家のつつましい隠宅とか、囲い者、かよい番頭などの、静かなしもたやが多く、だが、五筋ある路地へはいると、どの路地も左右の棟割り長屋が軒を接していて、馴れない者には...