怒れる高村軍曹
いかれるたかむらぐんそう
初出:「早稻田文學」東京堂、1921(大正10)年8月号分量:約29分
書き出し:一消燈喇叭が鳴つて、電燈が消へて了つてからも暫くは、高村軍曹は眼先きをチラ/\する新入兵たちの顔や姿に悩まされてゐた。悩まされてゐた——と云ふのは、この場合適当でないかもしれない。いざ、と云ふ時には自分の身代りにもなつて呉れる者、骨を拾つても呉れる者、その愛すべきものを自分は今、これから二ヶ年と云ふもの手塩にかけて教育しようとするのであるから。一個の軍人として見るにはまだ西も東も知らない新兵である...