雨瀟瀟
あめしょうしょう
初出:雨瀟瀟「新小説」1921(大正10)年3月分量:約63分
書き出し:その年の二百十日はたしか涼しい月夜であった。つづいて二百二十日の厄日《やくび》もまたそれとは殆《ほとん》ど気もつかぬばかり、いつに変らぬ残暑の西日に蜩《ひぐらし》の声のみあわただしく夜になった。夜になってからはさすが厄日の申訳《もうしわけ》らしく降り出す雨の音を聞きつけたもののしかし風は芭蕉《ばしょう》も破らず紫苑《しおん》をも鶏頭《けいとう》をも倒しはしなかった——わたしはその年の日記を繰り開い...