人間豹
にんげんひょう
初出:「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月分量:約418分
書き出し:猫属《ねこぞく》の舌神谷芳雄はまだ大学を出たばかりの会社員であった。しかも父親が重役を勤めている商事会社の調査課員で、これというきまった仕事もない暢気《のんき》な身の上であったから、飲み覚えた酒の味、その酒を運んでくれる美しい人の魅力が忘れがたくて、つい足しげくその家へ、京橋に近いとある裏通りの、アフロディテというカフェへ通よいつづけたのも、決して無理ではなかった。しかし、もし彼がもっと別のカフェ...