老人と鳩
ろうじんとはと
初出:「小説中央公論 第三巻八号」中央公論社、1962(昭和37)年7月21日分量:約12分
書き出し:老人は六十二になった。右半身が不自由だった。右腕が痛かった。でも、だんだん少しはよくなった。歩きだしてしばらくすると右の肺が痛かった。熟《じ》っとしていると、痛みは消えていった。三十になる頃、心臓が肥大していた。息切れがひどかった。六十になった時には、杖を引いていた。野桜の杖である。ちょっと手頃である。いつか、愛していた。野原の野桜である。……ある日突然に倒れた。口がきけず、ものが言えなくなった。...