九右エ門(きゅうえもん)という 農夫(のうふ)が 実際(じっさい)に 体験(たいけん)した 信じられないような 荒唐無稽な 奇想天外ともいえる 実話である。真冬に 薪を 採りに 山奥を 目指したところ 橇(そり)とともに 谷底に 転落してしまう。たまたま ホコラを 見つけ 寒さを 防ぐために そこに 潜り込む。ところが 実は その穴は 熊穴で 冬眠中の 熊の 冬の 窩(すみか)であり 突然の 人間の 乱入に 熊たるもの 慌てず 騒がず 乱闘 組み打ちにも 至らず 熊は むしろ 寝床に 男を 招き入れ 温くもりを 提供してくれる。それだけに とどまらず 越冬に 備えて 夏の間に 手に 塗り付けて置いた いわゆる 世上良く知られた 熊の手の 蜂蜜まで さしだして 男の 飢えを 凌がせてくれた。さらに 熊は 深い 雪中を ラッセルルして 男を 脱出道に みちびいた。九右エ門は 八十二歳の頃 所望する人々に この 体験を もったいぶって 話して 聞かせ 振るまい酒に しばしば ありついたという。漫画に したら 大ヒットするかもしれないと 想った。蜂蜜の 副作用(ふくさよう)のため 熊君は 自分が 飼い犬か 熊か 分からなくなったのかもしれない。
牧之の下絵を もとにした挿し絵も とても楽しい。雪下に 熊の 冬眠のための穴が あるところには 必ず 上部の雪面に 細い穴が 息抜き管のようにある 。漁師は その 細穴から 熊が 下に 潜んでいることを 知ると言う。 後ろからでも 読めるので 気楽に 楽しめるかもしれない。