葡萄蔓の束
ぶどうづるのたば
初出:「オール讀物」1940(昭和15)年6月分量:約30分
書き出し:北海道の春は、雪も消えないうちにセカセカとやって来る。なにもかもひと口に頬張ってしまおうとする子供のようだ。落葉松《からまつ》の林の中は固い雪でとじられているのに、その梢で鶫《つぐみ》が鳴く。低く垂れていた鈍重な雪雲の幕が一気にひきあけられ、そのうしろからいちめん浅みどりの空が顔をだす。雪の表面《うわかわ》が溶け、小さな流れをつくって大急ぎで沢のなかへ流れこみ、山襞や岩の腹についていた雪は大きな塊...