「蛾はどこにでもゐる」の感想
蛾はどこにでもゐる
がはどこにでもいる
初出:「文藝春秋 第四年第十號」1926(大正15)年10月1日

横光利一

分量:約16
書き出し:一たうとう彼の妻は死んだ。彼は全くぼんやりとして、妻の顏にかかつてゐる白い布を眺めてゐた。昨夜妻の血を吸つた蚊がまだ生きて壁にとまつてゐた。彼は部屋に鍵をかけたまま長らくそこから出なかつた。彼は蚊が腹に妻の血を蓄へて飛んでゐるのを見ると、妻の死骸よりも、蚊の腹の中で、まだ生きてゐる妻の血に胸がときめくのを感じた。二彼は家をたたむと一時妻の家へ行つてゐた。彼はそこから日日金のある間、氣力を引き立てる...
更新日: 2020/09/08
19双之川喜41さんの感想

 亡くなった妻が  姿を蛾に変えたような 気持ちになっている 男のもとに  突然 見知らぬ女が 訪ねてくる。 その部屋に  蛾が飛び込んでくると  女はうろたえ慌てる。 食事の時の膳の縁に止まった蛾にも  男は 幻影を感じる。 詩情を 強調した  優れた小品と思う。

更新日: 2017/09/19
芦屋のまーちゃんさんの感想

死んだ妻 自分の前に現われる蛾を 死んだ妻だ、と思っている 妻はどこにでもいる 心の中に? 女が訪ねてくるが、 (その)女を妻だと思うより蛾を妻だと強く思っている・・・ 自分の妻を捨てて女を助けるということはできなかった・・・ この男は、本当に亡き妻を愛していたのか?21才で死んだ女に対する哀れみや罪悪感が彼に幻覚を見させているのではないか?「あなただけが幸せになるなんて許されることではありませんことよ!」蛾が語るのだろう。 「いいこと。あなたのファンかどうか知りませんが、その女は絶対許しませんわ。」と蛾は女を追い払う。 本当に愛があれば、 「私のことは早く忘れて、あなたはあなたのこれからの人生を歩んで下さい。」と亡妻は言うだろう。 それこそ、幻想か・・・・・・