幻想的小品といえる周五郎の筆力の魅力が、乾いてひび割れ変形した現代の日本語とは比較にならない程の精神的果汁がにじみ出ている。所詮世の中はウソ出できているのだから、幕末維新の端境期に果敢に戦った若き群像の一人として清水信之助のロマンとそれに慕う恋仲で出家後月心尼の真摯な生き方を描いたフィクションの力に見を預けても可也。春幾度、ウクライナにトルコ、シリアの大地震、軍拡に狂奔する大国、人類の危機が頭にちらつくこの季節、一斉に武器を捨てて、徒手空拳で文学の叡智にあやかりたい、そんなことを思いながら青空文庫に入れる労を頂いた方々に感謝したい。