母を恋うる記
ははをこうるき
初出:「大阪毎日新聞 夕刊」1919(大正8)年1月18日~2月19日分量:約51分
書き出し:いにしへに恋ふる鳥かもゆづる葉の三井の上よりなき渡り行く———万葉集———………空はどんよりと曇って居るけれど、月は深い雲の奥に呑《の》まれて居るけれど、それでも何処《どこ》からか光が洩《も》れて来るのであろう、外《と》の面《も》は白々と明るくなって居るのである。その明るさは、明るいと思えば可なり明るいようで、路《みち》ばたの小石までがはっきりと見えるほどでありながら、何だか眼《め》の前がもやもや...