中央公論や新潮といった今では所謂大出版社の起こりや当時の編集者、作家事情がつまびらかにされていて大変に興味深く勉強になった。 自然主義文学が流行っていた時代に抗って興した新小説、抗うわけではなく時流と流行りの勘所を押さえて上手くやった中央公論、昔から攻撃的気質を持っていたらしき新潮、今は弱小だが当時は押しも押されもせぬ大出版社であった模様の博文館など、この作品を読まなかったら知らぬままであった。 それにしても正宗白鳥というのは、名前だけでも得しているなと感じる。作家としてあまり大した作品を残しているとは思わぬが、このネーミングはいかにも成功しそうな絶妙さである。 東京専門学校文学科→早稲田出版部→読売新聞文藝担当→作家→文芸評論家という経歴も実に当時らしい。 出版社や小説家も今と比べて実に鷹揚な時代で、今のようなネットだの、メディアだの、動画だの、ゲームだの、アプリだのといった、小賢しく消耗させられるだけのくだらない暇潰しのなかった時代、文芸や小説や新聞にとって、また編集者や小説家や評論家、そして彼らの作品を楽しみに待つ大衆にとっても古き良き時代だったのだろう事がありありと偲ばれる。 漱石や独歩や露伴や花袋といった名前が出てくるのも実にこの時代の回顧譚らしく、面白く楽しい。