「編集者今昔」の感想
編集者今昔
へんしゅうしゃこんじゃく
初出:「群像 第九巻第二号」大日本雄弁会講談社、1954(昭和29)年2月1日

正宗白鳥

分量:約17
書き出し:この頃は回顧談が流行してゐる。昔の有名人の噂などはことに雜誌の讀者に喜ばれてゐるらしくも思はれる。讀者の喜ぶか喜ばぬかは別として、筆者自身いい氣持で書いてゐるらしい。芥川に關する回顧談、回顧的作品など、私の目に觸れただけでも幾つあつたことか。芥川龍之介といふ大正期の作家が、どれほど傑かつたにしろ、どれほど人間的妙味に富んでゐたにしろ、その噂はもう澤山だと云つた感じがしてゐる。私も幾度か芥川に會つて...
更新日: 2020/04/18
ce72b9d7c7caさんの感想

中央公論や新潮といった今では所謂大出版社の起こりや当時の編集者、作家事情がつまびらかにされていて大変に興味深く勉強になった。 自然主義文学が流行っていた時代に抗って興した新小説、抗うわけではなく時流と流行りの勘所を押さえて上手くやった中央公論、昔から攻撃的気質を持っていたらしき新潮、今は弱小だが当時は押しも押されもせぬ大出版社であった模様の博文館など、この作品を読まなかったら知らぬままであった。 それにしても正宗白鳥というのは、名前だけでも得しているなと感じる。作家としてあまり大した作品を残しているとは思わぬが、このネーミングはいかにも成功しそうな絶妙さである。 東京専門学校文学科→早稲田出版部→読売新聞文藝担当→作家→文芸評論家という経歴も実に当時らしい。 出版社や小説家も今と比べて実に鷹揚な時代で、今のようなネットだの、メディアだの、動画だの、ゲームだの、アプリだのといった、小賢しく消耗させられるだけのくだらない暇潰しのなかった時代、文芸や小説や新聞にとって、また編集者や小説家や評論家、そして彼らの作品を楽しみに待つ大衆にとっても古き良き時代だったのだろう事がありありと偲ばれる。 漱石や独歩や露伴や花袋といった名前が出てくるのも実にこの時代の回顧譚らしく、面白く楽しい。