「小品四つ」の感想
小品四つ
しょうひんよっつ
初出:「母の死」岩波書店、1935年(昭和10)年4月

中勘助

分量:約9
書き出し:秋草これはもうひと昔もまえの秋のひと夜の思い出である。さっさっと風がたって星が燈《とも》し火のように瞬《またた》く夜であった。身も世もないほど力を落して帰ろうとするのを美しい人が呼びとめて「花をきってさしあげましょう」といいながら花鋏《はなばさみ》と手燭《てしょく》をもっておりてきた。そして泳ぐような手つきで繁《しげ》りあった秋草をかきわけ、しろじろとみえる頸筋《くびすじ》や手くびのあたりに蝗《い...