菎蒻
こんにゃく
初出:「中央公論」中央公論社、1937(昭和12)年4月分量:約58分
書き出し:底冷えのする寒さで眼がさめた。夢からさめたあとの味気なさのせいでもあるが横の蒲団に枕をならべて眠っている妻と子供の顔が鈍《にぶ》い電灯の灯《ほ》かげの中にたよりなくうきあがって見える。自分の力で支えきれないような不安がどっと胸にこみあげてきたのである。生活の重みに堪えられないというかんじではなくずるずるとすべり落ちた小市民的な感情の中で何時《いつ》の間にかわれとわが運命の落ちつくさきを思いがけなく...