殺生谷の鬼火
せっしょうだにのおにび
初出:「新少年」1937(昭和12)年9月分量:約27分
書き出し:凶報到る東京理科大学生の椙原敦夫《すぎはらあつお》は、北海道の奥地に在る故郷の妹から、(母死ス父危篤至急帰レ、至急ヲ要ス)という意味の電報を受取《うけと》った。「なんだい是《これ》は」敦夫は訳が分らぬという顔で呟《つぶや》いた。「母さんが死んで父さんが危篤だって?——またチイ公の悪戯《いたずら》じゃないのか」春の休暇で帰省した時には父親こそ数年来の病床にあったが、妹の千代子も母親も揃ってぴんぴんし...