若き夫に寄せた恋情があまりに強く、死んだのちも、新妻は、その思いを断ち切ることができずに現世をさ迷い、夜毎、夫の床に訪れては夜が明けるまで添い寝して「ねえ、あなた、もっと、こちらにいらしてくれなきゃいや、ばか~ん」てなことを言いつつ、明け方には去っていく。 夫は、妻の死に際に、ふたたびノチゾイを娶らぬように強く誓わされているからして。 日々衰えていく息子を心配した母親は、なにか気掛かりな事でもあるのかえと問いただすと、毎夜亡き妻が現れ、あなたと離れるのがつらくて悲しい、ぜひ一緒に来てくだしゃんせぇとせがまれていると告白する。 えっ~、なんだってぇ、と驚いた母親は、さっそく寺の僧に相談したところ、 「ふむふむ、そうか、霊は迷うておるのじゃ、そのようなことは、よくあること。拙僧に万事お任せさっしゃりませ、みんごとこの拙僧が引導を渡してくれようぞ、ヌハハハハのハ」 僧侶は、近親者一同を墓地に伴い、若妻の墓を掘り返し棺桶を開くと、あ~ら不思議、まるで生きているかのごとき妖艶な若妻が、しなをつくって並みいる親類一同に、愛くるしくニッコリと微笑みかけた。 うぁ~‼️ とパニくる親類一同を 「ええい、黙れ❗ うろたえるな、愚か者ども、これから、わしの為すことを、そのど腐れまなこで、よ~く見ておれ」 僧は、女体に、なにやらの梵字をさらさらさらと書き付けた。 たちまちにして、新妻即成仏と相成ったうえに、それ以降は、新妻の霊は二度と現れなかったというおそまつ、なのだが、最後に気になる一言が書き添えられていた、 「その後、夫が妻との約束を守ったかどうかは、分からない」なのだそうだ。 じゃ、ぜってえ、かわいい娘、もらったな だってさ、言い淀む妻の願い(自分の死後も再婚しないでくれと願うことは、ずいぶん身勝手な願いであると本人自身が一番分かっていたはず)を無理やり話させておいて、「なんだ、そんなことか」的な安請け合い、こういうのが、一番信用できない。 小泉八雲も、事実が分かっているから、あえてこういう書き方をして有耶無耶に濁らせたと思うしかない、霊への同情、これが小泉八雲の一貫した姿勢であります。おわり