空家
あきや
初出:「夜鳥」春陽堂、1928(昭和3)年6月23日分量:約13分
書き出し:錠をこじあけて屋内《なか》へ入ると、彼はその扉《と》を要心ぶかく締めきって、じっと耳を澄ました。この家が空家《あきや》であることは前から知っていたが、今入ってみると、寂然《ひっそり》していてカタとの物音もないのと、あやめも分かぬ真の闇に、一種異様な気味わるさを感じた。一体、今夜のように、人がいてくれなければいいという願望《ねがい》と、そうした静寂の不気味さを同時に感じたということは、彼としてはこれ...